そして、バトンは渡される

ヒューマン系

著者:瀬尾まいこさん

Amazon.co.jp: そして、バトンは渡された (文春文庫) 電子書籍: 瀬尾 まいこ: Kindleストア
Amazon.co.jp: そして、バトンは渡された (文春文庫) 電子書籍: 瀬尾 まいこ: Kindleストア

何度も親が変わるという特異な家庭環境で育った少女・優子が、さまざまな“親”との暮らしを通じて愛のかたちを知っていく物語。血のつながりに縛られない家族像を、温かさとユーモアを交えて描きます。涙と笑いのバランスが絶妙で、「家族とは何か」をやわらかく問いかける一冊です。

“家族”という概念を静かに、しかし鮮やかに揺さぶる物語です。主人公の森宮優子は、血縁の親と暮らす時間よりも、養父母と暮らす時間のほうが圧倒的に長い人生を送っています。
彼女は幼少期から、親が変わるたびに名字も生活も一新され、何度も「家族のかたち」が入れ替わります。それでも、彼女は不幸そうな顔をしません。むしろ、関わる大人たちはそれぞれのやり方で彼女を愛そうとし、優子もまたその愛情を受け取り、次の人へと“バトン”のようにつないでいくのです。

家族の在り方を「血縁」ではなく「選び取った関係性」として描く
多くの家族小説は血のつながりやその断絶をテーマにしますが、この作品は最初から血縁にこだわらず、環境が変わることを自然な流れとして受け入れます。
そして、それが悲劇ではなく、むしろ多様な人間から多様な愛情を受け取る機会として肯定的に描かれているのです。

心に残る場面のひとつは、優子が何度目かの引っ越しをする前夜、養父母の一人が「大事なのは誰といたかじゃなく、どれだけ幸せだったかだ」と語る場面です。
家族が変わることは、普通なら不安や喪失を伴います。しかし、優子はその言葉に背中を押され、変化を受け入れる柔軟さを手にします。このシーンは、血縁や形にとらわれない「家族の本質」が、人が人を想う気持ちにあることを強く示しています。

現代日本は少子化や離婚率の上昇、再婚家庭や養子縁組の多様化など、家族の形がかつてないほど多様化している社会です。それに伴い、“普通の家族”というイメージは急速に揺らいでいます。
そんな中で本書は、「つながりは選び直していい」「愛情は形よりも質である」というメッセージを物語の芯に据えています。これは、同調圧力が根強く残る社会において、生きやすくなるためのヒントにもなります。

仕事や友人関係でも、人との縁は状況によって変わるもの。それを「失う」ではなく「新しい誰かと出会う」と考えられるようになれば、別れや変化に対する恐れは和らぎます。また、自分が他者に与える影響もまた、次の誰かにつながっていく。そう思えると、日常の行動や言葉選びも自然と変わっていくでしょう。

『そして、バトンは渡される』は、涙を誘う感動小説であると同時に、変化を肯定的に受け入れるための実用的な心構えを教えてくれる一冊です。
読み終えたあと、あなたの中で“家族”という言葉の輪郭が少しやわらぎ、これまで以上に人とのつながりを大切に思えるようになるはずです。

血縁を超え、愛情を受け継ぐ物語。
変化を恐れず、つながりを選び直す勇気をくれる一冊。
家族の形に縛られない、温かな生き方のヒントがここにある。

コメント

タイトルとURLをコピーしました