明け方の若者たち

著者:カツセマサヒコさん

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カツセマサヒコさんの『明け方の若者たち』は、20代の恋と青春の終わりを描いた等身大のラブストーリー。明大前の飲み会で出会った彼女に惹かれた“僕”は、社会に出て現実と理想のギャップに苦しみながらも、忘れられない一年を過ごす。誰の胸にも残る、切なくも愛おしい青春の記録。

”青春”と“現代社会の息苦しさ”を鮮やかに描き分ける、リアル&エモーショナルな青春小説だ。物語は明大前の退屈な飲み会で始まる――「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」というたった16文字のメッセージから、主人公の“僕”は深い沼へと足を踏み入れる。フジロックや江ノ島、IKEAのセミダブル。そんなかすかな香りがする瞬間に胸が締めつけられる描写は、まるで写真フィルムを現像するようなノスタルジーと鮮烈さを持って迫ってくる。

この作品は青春の切なさと虚しさを描きつつ、その中に思わずクスリと笑ってしまうような等身大のユーモアが随所に散りばめられているのが魅力。社会人生活を送り始めてからの自虐だ。「今日も今日とて、満員電車で押し潰される。このまま潰れて煎餅になればせめて誰かの酒のつまみになれるだろうか」という、笑うしかない日常の悲哀の描写が絶妙。重すぎず軽すぎず、青春の苦さをユーモアで中和しているのがこの小説の持ち味だ。

傷つきやすい若者の自己防衛的な笑い、現実逃避の冗談、ダメな自分を茶化すことでしか保てない心のバランス。それが非常にリアルで、思わずクスリとしながらも、「わかる…」と呟きたくなる。このさりげないユーモアが、重くなりがちな青春の痛みや恋愛の失敗談を、読後感の良いものに変えている。

20代前半という、「何者でもない自分」と「何者かになりたかった自分」がすれ違う瞬間。社会人になった途端に感じる「自分の人生、このままでいいのか感」を、これほど自然体で描いてくれる作品は多くありません。読んだ人は自分の過去や現在のモヤモヤを整理するきっかけになるし、「こういう感覚、みんなもあったんだ」と安心もできる。

『明け方の若者たち』は、報われない恋、将来への不安、社会への違和感──誰もが通る「若さの痛み」を丁寧に描いた一冊。自分の過去を振り返り、今を見つめ直すきっかけをくれる。青春のほろ苦さを受け入れ、失敗も肯定できるようになる、「人生の棚卸し」に効く実用的な青春小説。

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