📙僕の殺人計画

ミステリー小説

著者:やがみさん

Amazon.co.jp: 僕の殺人計画 : やがみ: 本
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数々の大ヒット作を世に送り出してきた編集者・立花のもとに、ある日、一編の原稿が届く。そこに描かれていたのは、自分自身が完全犯罪の被害者として殺される未来だった。
荒唐無稽と切り捨てたい一方で、原稿の内容は異様なまでに精緻で、現実と不気味に符合していく。命の危険を感じながらも、「続きを読まずにはいられない」という編集者としての本能が、立花を逃れられない死のループへと引きずり込む。
原稿を書いた謎の殺人鬼作家の正体とは何者なのか。仕組まれた運命を書き換えることはできるのか。命を賭けた読み合いと書き合いが加速する、究極の頭脳戦ミステリー。

主人公が求めるのは、単なる殺人ではない。誰にも気づかれずに成し遂げること、そして自分の思想を次の世代へ引き継ぐこと。この二点に、彼は異様なまでの執着を見せる。

目的だけを見れば、彼の思考は不気味なほど首尾一貫している。だが読み進めるほど、読者の中には別種の違和感が沈殿していく。なぜそこまで完全犯罪に固執するのか。なぜ思想を遺す必要があるのか。動機は示唆されながらも、決して明確には語られない。
この「語られなさ」そのものが強い不快感を生み、意図的な演出とも受け取れる一方で、ここまで愚直に計画を遂行できるほどの妄信が、動機不在のまま本当に成立するのか
という疑問も拭えない。

さらに引っかかるのが、思想の継承先として「子ども」が選ばれている点である。作中では、幼少期の教育と手紙という限られた手段によって、思想は驚くほどスムーズに受け渡されていく。しかし現実感の面で考えれば、それだけで人間の価値観や倫理観を根底からマインドコントロールできるのかという違和感は残る。
これは描写の甘さなのか、それとも「子どもは容易に染め上げられる」という大人側の危うい幻想を、あえて露呈させているのか。判断は読者に委ねられるが、その曖昧さが物語に強烈なざらつきを与えている。

本作の不快感は、確かに計算されている。理由が与えられないからこそ行為だけが剥き出しになり、読者は倫理的な足場を失う。しかし同時に、完全犯罪への好奇心だけで、ここまで徹底した計画を迷いなく進められるのかという現実的な疑念もつきまとう。

本書は、動機を解き明かして納得を与えるミステリではない。むしろ、動機の空白そのものを読者に押し付け、不快感と疑念を増幅させる作品である。なぜ人は、理解されなくても思想を遺そうとするのか。なぜ「完全」であることに、ここまで執着するのか。そして、その思想を受け取る側は、本当にそこまで無垢で、受動的なのか。

本作は読者を納得させない。その未消化な不快感こそが、この物語が最後に残す、最も厄介で、そして忘れがたい“成功”なのかもしれない。

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