📙殺人鬼フジコの衝動

ミステリー小説

著者:真梨幸子さん

Amazon.co.jp: 殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫) : 真梨幸子: 本
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一家惨殺事件のただひとりの生き残りとして、新たな人生を歩み始めた十一歳の少女。
だが、彼女の人生は、いつしか狂い始めた。人生は、薔薇色のお菓子のよう…。またひとり、彼女は人を殺す。何が少女を伝説の殺人鬼・フジコにしてしまったのか?。

本作は、単なる連続殺人犯の物語ではない。描かれるのは、一人の女が“狂気へ堕ちていく過程”ではなく、“狂気を生きてしまった一生”そのものである。

物語の中心にいるフジコは、世間が想像するような分かりやすい怪物ではない。彼女の人生は、惨殺事件という結果だけを見れば異常だが、その歩みは驚くほど現実的で、日常に地続きだ。本作が不気味なのは、フジコの内面がほとんど語られないことにある。徹底して第三者の視点から描かれるため、彼女が何を考え、何を感じていたのかは最後まで分からない。だからこそ読者は、ただ事実として積み重なっていく彼女の人生を見つめ続けるしかない。

特に印象的なのは、フジコが忌み嫌っていたはずの母親と、あまりにも似た人生をなぞってしまう点だ。暴力、支配、歪んだ愛情。彼女は親を否定し、距離を取ろうとする。しかし結果的に、彼女自身が同じ構造の中で他者を壊し、人生を破壊していくその姿は、「親が親なら子も子なのか」という残酷な問いを、否応なく突きつけてくる。

あまりにも同じルートを辿るため、読んでいるうちに奇妙な錯覚に陥る。これは因果なのか、宿命なのか、それとも逃れられないループなのか。人生が選択の積み重ねではなく、最初から敷かれた線路の上を走らされているだけなのではないかという疑念が、じわじわと広がっていく。

そして気づかされるのは、母親とは違う人生を生きようと強く意識すればするほど、抗えば抗うほど、フジコは同じ深みへと沈んでいったのではないかという皮肉だ。否定することに人生を費やした結果、彼女は最も否定したはずの場所へと辿り着いてしまう

だからこそ読者は、なおも知りたくなってしまう。語られなかった彼女の内側、フジコ自身の視点から見た世界、そしてこの衝動はいったいどこから生まれたのかを。続編において、フジコの目線からその根源が語られるとき、この物語はさらに残酷で、しかし決定的な輪郭を帯びるのではないか。
そう期待せずにはいられない。

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